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しかし、さすがにホッとひと息ついた時だったせいだろう。
忍は、この時、探し求めてきたかつての愛しい恋人の目が、
遠く自分を見ていることに全く気付いてもいなかった。
さて、と――。
だから、胸の内で独り言を呟き、何の懸念もなく忍は
荷解きと片づけが待っている部屋へと引き返して行った。
ところが、新たな城に戻ってみると、
キッチンを陣取った賢悟が、早くもセッセと片付けを始めていた。
「なんだ、随分と殊勝なことしてるじゃないか」
「当たり前だ。俺は、恩には厚く報いる男だからな」
細い鼻歌と共に、いそいそと食器類を取り出す旧友の姿に
クスッとほろ苦い微笑みが忍の口元から零れでる。
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