32人が本棚に入れています
本棚に追加
閉店作業をすませて、フードエリアへ向かった。
お兄さまが、もう入り口で待っていた。
「なに食べよか?」
「台湾居酒屋にしましょう」
こんな状況で、焼き肉ジュージューしたくない。
「飲めるんかいな?」
「飲めへんこともない」
関東弁が怪しくなってくる。
コトバはリズムなんだなと感じる。
店に入って、一番小さい紹興酒を頼んだ。
「ほいだら、カンパイ」
「カンパイ…」
本当に、お兄さまだよ。夢じゃない。
男前なのか、そうじゃないのか、
微妙な栗色の目が懐かしい。
「オフクロに電話したわ。『一度、帰って来なさい』て」
ああ、お母さま。
帰って来なさい、か…
泣きそうになっちゃうじゃん。
「ジブン、オヤジさん亡くなったん…」
「知ってる」
「せやろな。墓、来てるヒトおる言うてはったもんな」
料理がきた。
「あっこで働いとんのか?」
「うん」
「どれくらいや?」
「4年」
また会話が途切れる。
「今、どこにおんねんな?」
「友だちの家に間借り」
「あれから、ずっとか?」
うなずいた。
「それ、オトコと違うん?」
「違うよ」
「オトコ、おるん?」
「別に…いない」
あれから、ずっとか?
きっと、そう思ってる。
「とにかくやな、一度帰ってきーさ。オフクロ、具合ワルイねん」
「何で!?」
「それが分からへんねん。周期的に起き上がれへんようになんねんか。医者は心因性や言うけど、せやったら周期的ゆうのんはオカシイ思うねん」
これは、行かないわけにイカナイ。
「来月にでも行くよ。入院してるの?」
「その時々やな。連絡せぇ。俺も一緒に行くし」
「ええ!?」
最初のコメントを投稿しよう!