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そんなことより、祖母は自分が死んだと気づいてないらしく、
畳は歩く音がするわ、押入れはガタガタいうわ、天井裏に上がる階段はきしむわ。
父はあい変わらず、仕事で家にいないから話もできない。
祖母だと分かってるから、怖くはない。
怖くはないけど、うるさくて寝られない。
ある日、あまりの音に耐えかねて、天井裏に上がってみた。
「もおおおお!なんもないよぉバアちゃぁぁぁん…」
みんな、アンタの娘が持っていちゃったんだからさぁ。
ほらぁ?ガラーンでしょー?
こんな、プラスチックのコンテナみたいなのしか…
開けてみた。
キッチリと、私の浴衣とその他一式が収納されていた。
さすがに、こんなのは持っていかない。
あのヒトの家は息子二人だし。
浴衣を引き出した。
「短くて着られないや…」
ちがう。
すそを出せばいいんだ。
バアちゃん、すそを縫い直そうと思ってる…!
樟脳くさい浴衣を抱いて、その場にひざをついた。
「バアちゃん、もういいんだよ…もう、いいんだよ…」
涙が出た。
「もういいから…もうジュウブンだから」
泣いて泣いて、泣きまくった。
その日から、祖母は本当に居なくなった。
これが祖母の形見分けだったのだと思う。
一ヶ月後、ようやく帰ってきた父が言った。
「来年から大阪の学校に行ってもらう」
「来年て!?高校からじゃなくて、三学期からってこと!?お、おーさか!?」
「俺の大学時代の友だちで、ナカダチって人がいる。この人の家で、お前を預かってくれるって言うから」
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