結髪

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世の中には、色んな理髪店があるものだ-- 薄暗い路地裏にある、古ぼけた理髪店を前に、男性はそう思った。 理髪店のシンボルである外灯は動いておらず埃まみれ。 店の壁にはヒビが入っており、それに沿って長く伸びきった蔦がへばりついている。 さらには理髪店の特徴でもある、中が良く見えるようにする筈の窓ガラスは真っ黒で、中が全く見えず、これでは却って客が来なくなるだろう、そう思わざるを得ない程、店の外観は最悪だった。 そんな店の前に今、若い男女が立ち止まっている。 常識的に考えれば、おかしな光景だ。 ところが、視点を変えれば、それはおかしくない光景だった。 この理髪店は廃墟同然の外観にも関わらず、毎日絶えず客が来る。とは言え、その数は少ないが。 しかも特徴的なのが、客は決まって カップルである。 何故カップルで行くのか? それはこの店が、 カップルでないと入れないからだ。 店の前には、古ぼけた木の板に、注意書が書かれている。 大抵のカップルは、この文を読めば店に入るのを辞めるものだが、 ある願いが強いカップルは、それでも尚、店に入っていく。 まるで、此処しか頼るところがないかのように。 板には、赤い字でこう書かれている。 『お一人様はお断り お二人様はお出迎え 二人の縁を固く結ぶ 故に此の店、『結髪』 縁結ばれし者達は 未来永劫共に歩まん 地獄に堕つる其の日迄』
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