結髪

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店主の言葉を聞き、男は恐怖を抱いた。 ずっと一緒-- 男は確かに女を好いている。だがそれと同時に、恐れも抱いていた。 女は、感情の起伏が激しい性格だった。少しでも気に入らない事があれば暴力に走り、少し叱られただけでまるで赤子のように大声で泣く。それと、 自分が得になるような相手には、猫のようにすり寄る。 正に悪女である。 そんな彼女とずっと一緒になるということは、この先、どのような恐ろしい事が待ち受けているだろうかと思うと、男は思わず鳥肌が立った。 男とは対照的に、女は店主の言葉を鵜呑みにして、喜んでいた。 「本当なのね!?なら良いわ。貴方、これから私達、ずーっと一緒に居られるって!」 汚れた満面の笑みで言う彼女に、男は返す言葉が見つからず、ただ苦笑いしていた。 そんな二人の間に割り込むように、店主が声をかけた。 「もし縁を切りたい時は、これを使いな。」 そう言って店主はあるものを男に渡した。 昔の人が使っていたような、小さい赤い櫛だった。 櫛を受け取り、意味が分からず呆然とする男の隣で、女が急に激昂した。 「ハァ!?何言ってんのオッサン!あんた縁結ぶ人でしょ!?こんなもん渡さないでよ!」 確かに縁を結ぶ店が、縁を切る道具を渡すのはおかしな話だ。だがそんなことで女は怒っていなかった。 店主の、まるで二人の関係がいつか終わるような言い草に、腹が立ったのだ。 男との関係が崩れれば、自分は生きていけなくなる。だからこそ、結ばれなきゃいけない。それなのに、関係を終わらせる道具なんか渡してこないで-- 沸騰するほど頭に血が昇っていた女だが、突然、その怒りが冷めた。 「ま、貰えるんなら貰っとくわ。ありがとう、おじさん。」 先程までの怒りが嘘のように消えていた。逆に、笑みさえ浮かべていた。 女は男から櫛を取ると、自分の鞄に入れて、陽気に店を出ていった。 男もそれに続こうと、店主に一礼し、店を出ようとしたその時、自分の右側から視線を感じた。 ふと右を見ると、そこには美容師が練習用に試用するカットウィッグがあった。 それに、男は違和感を感じた。 本来ならば作り物のはずなのに、何故か 生気を感じた。 ふと、男の頭の中に過る。 鏡に映った自身を-- まさかと思っていた次の瞬間、 ウィッグの目がギョロっと動いた。
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