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男の顔は一気に青ざめ、逃げるように店を出ていった。
静寂に包まれる店内。
店の椅子に腰掛けていた店主が重い腰を上げ、ポツリと呟いた。
「さて、ウィッグの手入れしとかないとね。
よく伸びるように。」
それからというもの、あの二人はトントン拍子に結婚まで辿り着いた。男の父親や、女の両親からも賛成され、更に男の父からは、大きなプレゼントを貰った。
社長の座と、莫大な相続金である。
男の父親は有名な資産家であり、貿易関係の会社の社長を務めていた。日本で5本の指に入る程の富豪で、東京ドーム2個分程の大豪邸を建て、妻と子供2人を養っていた。
だが、15年前に妻が他界してから体調を崩し会議も休みがちになり、仕事もままならなくなって、8年前、とうとう入院生活を余儀無くされた。
多臓器に癌が転移しており、余命があと僅かとなった時、二人が結婚の話をしにやって来た。
父は嬉しそうに吉報を聞き、そして男にプレゼントを渡した。
社長の椅子と、自身が貯めてきたお金を。
父は、二人の手を握り締め、涙を流して、残りの気力を全て注ぎ込むように、必死に声を振り絞って言った。
「コイツは一人じゃ何も出来ん男だ。コイツをしっかりと支えてやってくれ。
そしてお前は、この人を精一杯幸せにしてやるんだぞ。
儂は母さんを幸せにしてやれなかった。
その見返りがこの様だ。
お前も儂みたくなりたくなかったら、奥さんを目一杯愛せ。そして、
もういないお前の兄夫婦の為にも、
二人で幸せに生きるんだぞ。」
それが最期の言葉だった。
そのあと、父は静かに息を引き取った。
父からの言葉に、泣き崩れる男。
その隣で、
女はほくそ笑んでいた。
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