血の章

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ーーー2019年3月2日 東京の杉並区を中心に、円を描くように広がり始めた女性の狂乱騒ぎ。 五百キロ離れた地域では、いつもと変わらない日常が流れていた。 揺れる電車内、吊り革を握る父親を丸い瞳で見上げる少年。 隣には母親が座り、手を握っている。 「ねぇ、お父さん!鹿せんべいって人間でも食べられるのかな?」 目を輝かせながら少年がそう尋ねると、父親は優しい笑みを浮かべて口を開く。 「ぬかで出来ているから食べられるかもしれないけど、美味しくは無いと思う。まず、鹿用に作ってるんだから、人間の口には合わない。 それに、衛生面を考えたら安易に口に含むべきではないと思うけどな」 「フフ、お父さんって……ほんと大人げない説明の仕方するわよね。翔真、今の説明で分かった?」 両耳に大きなゴールドのピアスを付けた母親が息子の顔を覗き込んで問い掛けた。
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