溺れる魚

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 当時は理由がわからなくても、全て母が正しいのだと思っていた。大人になって母が全てではないと気づかされたが、今でも迷う事がある。  皆川は言った。淳は自分に嘘をついていると。意味が分からなかった。何の嘘をついているというのだろうか。  未来のことだって好きだから付き合っている。そこに嘘は何もない。何も。  淳の何が見えているというのか。皆川は淳が嘘をついていると、決めつけている。そして、皆川とキスをすることを望んでいると言う。 (そんなまさか)  否定する気持ちの中で、皆川にされたキスを思い出した。全身が性感帯になったような、甘い痺れも思い出す。  (違う、違う、違う)  本当の自分が分からない。自分が何を望んでいるのかさえ、見当がつかない。  だって、欲しいものは手に入らない。望んでも無くなってしまう。  だったら、最初から望まなければいい。望んでしまったら、手に入らなかった時の脱力感を味わなくて済む。 (空腹もずっと空腹だったらそれが普通だ)  望んではいけない。気づいてはいけない。  皆川が怖い。  
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