溺れる魚

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「誰といたんですか?」 「えっと、会社の人、ですけど・・・」 「内野さんですか?」 「えっ」  ピンポイントで内野の名前を出された事に動揺しながら、皆川を見返した。ちょっと怒ったような、困ったような、なんとも言えない表情。初めてみる表情だ。そんな顔をしていても、つい見とれてしまう。淳の好きな顔だと思った。 「僕以外と飲みに行く人なんていたんですね」  尖った言い方に目を見開く。皆川はこんな意地悪な言葉を吐く人だっただろうか。 「お、俺だって誰かと飲む事もあります」  実際は今日が初めてだったが、それを正直に明かすのは恥ずかしかった。友達が一人もいないなんて思われたくない。 「お酒、得意じゃないなんて嘘だったんですか?。吉岡さんて意外と悪い人なんですね」 「なっ・・・」  思いがけない非難に、言葉が出て来なかった。  何故そんな事を言うのだろう。わざわざ部屋の前で待って、話したい内容はこれなのか?。  もう、この会話を終わらせたかった。 「言いたい事がよく分からないです。もし、他に話がないんだったら・・・・っ」  皆川の強い視線に耐え切れなくて、目を伏せた。
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