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昨日、あれだけたくさんの質問が頭の中を巡っていたのに、出てきた質問はそれだけだった。
「すみません」
皆川の目はいつもの優しい眼差しに戻っていた。
「答えになってない」
「何ででしょうかね。僕の手の中に落ちてきて欲しいんです。吉岡さん、自分に嘘ついてますよね」
「どういうこと」
「本当に彼女の事好きですか?」
「・・・は?」
「吉岡さん、僕の事どういう目で見てるか知っています?。本当はこうされること望んでるんじゃないんですか?」
淳の頭は真っ白になった。息が苦しい。さっきまで熱を持っていた体が急激に冷えていく。
指先が震えた。もう、あの目は見たく無い。侮蔑の眼差しが脳裏に浮かぶ。
「帰れ」
「吉岡さん」
「帰れっ」
淳は目をぎゅっと閉じた。何も考えたくない。
皆川は震える淳の指先をそっと包み、頬にくちづけた。
「吉岡さん、僕をちゃんと見てください。僕は吉岡さんが好きです。本当は、酔っている時に言いたくはなかったけれど、好きです」
耳鳴りがしている時のように皆川の声が遠くに聞こえる。
「だから、逃げないで下さい。また、来ます」
皆川はそう言って淳から離れた。
呆然と座り込む淳は皆川が出ていくのを見送らなかった。玄関の閉まる音が聞こえると、淳は床に崩れ落ちた。
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