309人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
普段、今までの彼女に振られたとしても、ここまで気分が沈む事はなかった。
朝の未来からのラインが淳の顔色が悪い原因だ。内野のからかいにも「すいません」としか言えなかった。
そんな淳に嫌気がさして、内野もすぐに立ち去ったのだろう。
探していた、脚立を脇に抱えると、1階に戻る為に倉庫を出た。
「吉岡」
背後で内野の声が淳を呼び止めた。
振り向く前に、内野が淳の横に並ぶ。
「飲みに行くか」
「えっ」
「後でな」
肩を拳で軽く叩かれる。
内野は淳の都合など聞きもせず、2階売り場へ戻っていった。
一度立ち去ったのに、また戻って淳を呼び止めたのは、本当はもともと飲みに誘う気などなかったはずだ。
もし、最初から誘う気だったなら、一度話しかけた時に誘っている。
淳の雰囲気を察して、わざわざ考え直して飲みに誘ったのだ。
今まで、何も感じなかったのに。
内野の優しさに気づく。
何年くまの書店で働いて、気づいたのだろう。
誰かに気遣って貰える事が、こんなに嬉しい。
最初のコメントを投稿しよう!