溺れる魚

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 普段、今までの彼女に振られたとしても、ここまで気分が沈む事はなかった。  朝の未来からのラインが淳の顔色が悪い原因だ。内野のからかいにも「すいません」としか言えなかった。  そんな淳に嫌気がさして、内野もすぐに立ち去ったのだろう。  探していた、脚立を脇に抱えると、1階に戻る為に倉庫を出た。 「吉岡」  背後で内野の声が淳を呼び止めた。  振り向く前に、内野が淳の横に並ぶ。 「飲みに行くか」 「えっ」 「後でな」  肩を拳で軽く叩かれる。  内野は淳の都合など聞きもせず、2階売り場へ戻っていった。  一度立ち去ったのに、また戻って淳を呼び止めたのは、本当はもともと飲みに誘う気などなかったはずだ。  もし、最初から誘う気だったなら、一度話しかけた時に誘っている。  淳の雰囲気を察して、わざわざ考え直して飲みに誘ったのだ。  今まで、何も感じなかったのに。  内野の優しさに気づく。  何年くまの書店で働いて、気づいたのだろう。  誰かに気遣って貰える事が、こんなに嬉しい。
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