仮面の奥底に

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     1   ついさっき晴れていたと思ったら、すぐに陰り、今は大粒の雨が地面を叩きつけている。  ガラス越しに覗く歩道は、急に降ってきた雨に逃げ惑う人々が右往左往していた。  その中でも準備がいい一部の人間は折りたたみ傘、あるいはビニール傘をコンビニで手軽に調達し、颯爽と歩いていく。  要領のいい人間とそうでない人間は、どこで振るいにかけられるのか。自分は恐らく要領の悪い部類にはいるだろう、と窓の外を眺め吉岡淳(よしおかじゅん)は思った。  きっと、大雨に降られてしまったら、ほとんど無意味と知りながら、手に持っていたカバンを頭にあてて右往左往するのだ。  たった今、逃げ惑っていた一人が雨宿りに店内に入ってきた。     はっとして、止めていた手を淳は慌てて動かす。  仕事中だ。惚けていたら店長に叱られてしまう。  くまの書店、文房具売り場。それが、淳の仕事場だ。書店は5階建てのビルの1階、2階を占領し、1階が文房具、雑誌。2階がコミック、書籍、児童、実用書と別れている。  季節ごとにイベントやキャンペーンを開催しているが、今、文房具売り場では実用書と一緒に秋の写経フェアを開催すべく什器の設置をしていた。  入口から入ってすぐの目立つ所に作っているため、外の様子がすぐにわかる。
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