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淳から誘う事など今まで一度もない。内野の声が僅かに警戒している。
「飲みに行きませんか?」
「・・・いいけど」
驚きを隠せない内野を無視して、淳はロッカーから鞄を取り出す。淳も自分で驚いていた。しかもあんなに苦手だったお酒の誘い。すっかり皆川に感化されている。
でも、今日は家にこのまま帰ったらまた取り留めのない質問が頭の中を占拠してしまう。それならいっそ酒でも飲んで、何も考えずに寝てしまいたい。何も考えないのなら、誰かと一緒がいい。
休憩室に内野がいてくれて良かったと思った。
3
「何かあったのか?」
大根の煮物を箸で割りながら、内野は淳を見た。
皆川と一緒に行くような洒落た店ではなく、内野に連れて来られたのは大衆居酒屋だった。ボソボソと囁き声で話す客なんて一人もいない。あっちこっちから、男も女も大きな笑い声で会話も筒抜けだった。
だからこそ、淳のようにボソボソ話す声など周りには聞こえないだろうが。
「いえ、ちょっと飲みたい気分だったんです」
内野に全部話すなんて出来ない。
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