プロローグ 偏執病の人造人間

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ーー1990年 4月15日 リベリア  コンクリートは抉(えぐ)られ冷えたガラスや壁の破片が散らばり戦火の爪痕が荒々しく残された建物の中で6組程の黒人家族達が身を寄せ合っていた。大人子供合わせて30人以上はいた。その集団の横で数十人の黒人少年兵と彼等を率いているのであろう一人の野戦服を着た男が休息を取っている。たような、自分の偉業に歓喜しているような様子だった。  産まれたばかりの男は大人達の様子に少々の疑問も抱くこともなかった。まだ疑問という概念ができていなかった。何故ならその時の彼の精神年齢はまだ0歳であったからだ。だが自我自体は恐るべきことに子供の自我ではなく立派な大人のそれであった。なので不要に泣き喚いたりはしない。本能的にそれは“恥”だと認識していた。  生まれたばかりの彼は次の“フェイズ”へと移行される。  産まれてから1日目 体中に管や電線を刺し込まれ、大きな鏡のある白い部屋の中で 男は食事や排泄、睡眠といった生理的なことを大人達に教え込まれた。2日目には言葉や計算。3日目には社会情勢や歴史。4日目には彼の精神年齢は20代にまで到達していた。  大人達の態度や言動はとても不思議だった。真っ白の部屋に引きこもりベッドで寝ているだけで「君は完璧だ」「君は完全だ」などと褒めてくる。人間は褒められると嬉しいと感じるらしいが男はただただ疑問に思いながら、様々なジャンルの本をひたすら読んでいた。  5日目、精神年齢は27歳になった。白い部屋から出してもらうことはなかったが、その日は楽しそうな事が起きた。男に会いにとある人物がやって来るという。その事態に施設の大人達は慌ただしくなっており、掃除を徹底する者や男の伸びっぱなしの髪を整えたりする者。そんな大人達を見て初めて可笑しいと思い笑みが出た。  どうやら傷のある顔「スカーフェイス」と呼ばれている男が自分に会いにくるという会話からこっそりと聞き取ることができた。  退屈なことばかりの生活であったから男は“楽しみ”という感情を抱き、それは体外へと滲み出し自然と顔は笑顔になった。  そして約2時間が経ったところでついにそのスカーフェイスは現れた。 「初めてましてだね ジャック。私がこうやって出向くことも珍しいからね。是非とも仲良くしてくれ。」
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