第15話 銀杏の透き間

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春とも夏とも空は変わらないのに、秋になると、晴れていても不思議と静けさを気取らされる。 十一月に入ってから、出かけるには薄手のコートが必需品になった。 昼間、天気がよければいらないのだが、とっくに日が落ちたいまはさすがに冷える。 温度差についていくのがたいへんだ。 「ねぇ、姫良。もう帰ったんじゃない?」 五時ちょっとまえから待つこと二時間、十階建てのビルに入った、一階の喫茶店のなか、知香がこぢんまりしたテーブルの向こうからつぶやいた。 テーブルに肘をついて、その手のひらに顎をのせているからよけいに退屈そうに見える。 「まだだよ。見逃すはずないんだから」 そう云う間も、姫良は真向かいの貴刀ビルから目を離さないでいた。
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