飛び込み死体をかっこいいと思った

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 無論人は一刻も早く死ぬべきで、おぎゃーと生まれた瞬間からどう死ぬかだけを考えて生きるべきなのだが、どういうわけかほとんどの人はそのことから目を逸らすのに躍起になっている。  かくいう僕もなかなか自死に至る最良手段を見出せず、ここまで長々と醜態を晒してしまったわけなのだが。  不肖十六歳にしてようやく、人生というチキンレースを敗北以外の形で終えられそうである。  とある廃ビルの屋上。眼前には雲一つない青空だけが広がっている。東には昇る太陽。地上の喧噪もここまでは届かない。見下ろした世俗では腐った果実が蠢いていた。まるで落ちまいと必死に枝に縋りつくように醜く。  彼らは一体これ以上どこへ堕ちる気でいるのだろう? この世に生まれたことこそが、これ以上ない堕落だというのに。  僕は背中のフェンスにもたれて思う。 「飛び降りるには悪くない朝だ」  人生との決別には晴れた朝が望ましい。これからいつもどおりが始まろうという時間に訪れる死は平淡な死よりは色づいているだろう。少なくとも、寿命で死ぬよりは胸を張れる。 「そう、思わないかい?」  僕は隣で同じようにしている少女に尋ねた。 「どうでしょうね」  少女は儚みを含んで微笑んだ。  生きているのに死んでいるように陰った目がとても綺麗だと思った。  高いところを吹く風は、彼女の長い黒髪を、細い足下より外へ靡かせる。
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