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彼女はよっとフェンスをよじ登る。影を降ろしたスカートの中で赤い下着が覗いていた。それを僕は覗いていた。
僕が見惚れている間にストンと向こう側へ着地した彼女は、僕に向かって手を差し伸べた。
「さあ」
その手はフェンスを越えなければ掴むことができない。仮に掴めたとしても、引き寄せたとしても、引き寄せられたとしても、フェンスがある限り相手のところへはいけない。
だからここは宛ら開けっぴろげな牢獄だった。
僕はフェンスをよじ登る。金網に指をかけ、爪先で鉄を蹴ってよじ登る。東の空には朝日。
僕はフェンスのてっぺんから彼女のほうへ飛んだ。
両足で着地した僕の手を彼女が両手で優しく包んだ。僕は少しドキリとして、向けられた慈愛すら帯びた死の微笑みにもう一度胸を跳ねさせる。
「キミ……名前は?」
「なんて呼びたいですか?」
「べつに呼びたい名なんてないけど」
「じゃあ、呼びたかった名前は?」
「……瑠依」
僕が初恋を捧げた相手。目の前にいる彼女と似て、背中まである長い黒髪を風にそよがせる姿が印象的な、僕の幼馴染。
叶うことなら、僕がいつか殺してあげたかった人。
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