リアルの決壊

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  「や、やめて。助け、て」 両手首を蛍太の 意外と大きな手で ひとまとめに掴まれ、 引っ張られるように 連れてこられた部屋に 驚愕した。 蛍太の部屋に来るのは 初めてじゃない。 彼の担当になった 今年の始めの頃、 お兄ちゃんと一緒に 何度か訪ねたことがある。 マネージャー業は色々で、 事務所でタレントと合流して 淡々と打ち合わせや 確認をし、 それから現場に 連れ立っていくような 事務的な関係もあれば、 蛍太とあたしのように ある程度プライベートに 干渉する関係もある。 どちらいいとか 正しいとかではなく、 タレントやアーティストの やりやすいように 収まっていくものだと思う。 蛍太とあたしは 昔なじみだから、 これが合っている。 だから、知っている。 今蛍太があたしを 連れ込んだのが、 彼の寝室であることを。 あたしの 小さいささやきを 聞いた蛍太は、 眉をひそめて振り返る。 「なんだよ、助けてって。 人聞きの悪い」 「だ、だってこれは、 あたしの貞操の危機なのでは」 あまりに とんでもない状況に、 思考がついてこない。 .
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