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この仕事を受けた時、
あたしは蛍太自身を
尊重しようと
決めていた。
愛情を持って
見てあげなければ、
蛍太はすぐに
へそを曲げるから。
そんなことを
ぐるっと考えてから、
言葉を整理した。
「……しいて言うなら、
蛍太の味方で
いようと思って
接してるだけ、かな」
「味方?」
「うん。
だって見るからに
子どもでしょ……
実際はどうあれ」
「ああ」
それが頭の痛いところだ、
というように
お兄ちゃんは眉間に
皺を寄せる。
「言うこと
聞いてくれるからって、
蛍太の愚痴そのものは
減らないんだよね」
「そうなのか」
「うん。
俺達は歌う人間でもあるのに
楽屋に加湿器が
足りないとか、
アーティストが通るって
判りそうなものなのに
スタジオ脇の廃材的な
備品が邪魔とか、
喫煙者なのに
灰皿用意してくれないとか」
「……」
お兄ちゃんの顔が、
くだらない、と
あからさまに言っている。
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