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「みんなは、
蛍太や拓海さんが
わがままだって言うけど──
あたしはそう決めつけるのは
違うと思ったの」
「うん?」
「仕事をしていて、
ちゃんと考えれば
判るようなことに
気付かない人が多いって。
蛍太の文句や愚痴の真理は、
そういうこと
じゃないかなって。
だって、
歌う人が楽屋の
清潔さや湿度を気にするのは
当たり前のことだし、
お仕事を依頼して
招いた方がそんなことに
気付かない方がどうかしてる」
考えながら
一生懸命話していると、
お兄ちゃんの姿勢が
少し前のめりになった。
「蛍太は、
怒ると怖い拓海さんより
先にそれを
指摘してるだけだと思うの。
ただ、至らないところが
多すぎてうんざりして、
不満そうになっちゃうだけなの。
……まあ、
モーニングコールのくだりは
単純に蛍太が悪いけど」
「そう、か」
「……まあ、
あたしがモデルやってたから、
アーティスト側の
ジレンマが判るだけなのかも
知れないけど」
お兄ちゃんは、
口元に手を当て
渋い顔をする。
我が兄ながら、
時々なにを考えているのか
判らない仕草をするから、
今は部下の立場だし
ちょっと緊張した。
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