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“オンブル”という
コーヒーチェーンのお店の
ドリップパックは、
インスタントながら
香りがいい。
お店で注文した時は
いちいち豆を挽いているから
もっと官能的な
香りがするけど、
2分で飲める
ドリップパックにしては
上出来だ。
志緒さんが
スタジオの隅っこで
淹れてくれたので、
溜め息が出た。
衣装部屋独特の、
保存された布の香りに
中てられて
眩暈がしそうだったから、
ぼんやりしていた
意識が覚醒してくる。
一口啜ると、
これまた濃厚な苦味が
あたしの神経を
びしりと打った。
「美味しい……」
「友達の旦那さんが、
ここの息子さんなんですよ。
クリーム載せても、
美味しいんだって」
親しげな志緒さんの言葉に、
そうなんですかと
微笑んでしまう。
「志緒さん、
顔広いんですね。
いいなあ、
コーヒーチェーンの
息子さんかぁ……」
少なくとも、
自分のとこの
商品の飲み方なんかを
教えてくれる程度には
親しい知り合い
なんだろうと思った。
あたしもご挨拶をする人、
というなら
たくさんいるけど──
そこまでなにかを
共有する人とか、
ほとんどいない。
言われるままに
目の前の仕事だけを
していたツケかも。
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