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「……F」
「早く行こ?」
砂糖をどろどろに
溶かしたような声で、
蛍太は低く
小さくささやいた。
声が可視化できるものなら、
蛍太のそれは
あたしの心も体も、
真ん中を貫いたに違いない。
こんなのは自分じゃない。
覚えたてのことに
夢中になっているだけだと
思いたいのに、
そうじゃないと
自分の中から
ささやく声がする。
あるわけない。
蛍太に惹かれるとか、
ありえない。
でも、求められる度
あたし自身も
彼が欲しくなることに
説明がつかない。
蛍太は
そのあどけない笑顔と、
意外に低い声で
何度もあたしを攻め落とす。
こういう男の人に
おんなにされると、
相対する属性に
染め上げられて
しまうんじゃないだろうか。
……彼の嗜好に合うように。
「……あ」
車のロックを解除した瞬間、
蛍太は後ろから
あたしを抱きすくめた。
開けたドアと
車体に手をついて
体を支えるあたしの下肢を、
いつもはベースを愛でる
指先がまさぐる。
「莉々、
最近マニッシュ
やめたよね。
……どうして
パンツスタイルやらないの」
「ちょ、蛍太……
待って、ここじゃ……」
「答えて。
どうして最近、
スカートなの」
「……ッ」
.
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