飼い犬からの放牧

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  「暑いよー、 暑いよー莉々ぃ」 甘ったれた声を出す蛍太は、 「やかましい」と 拓海さんに額を はたかれていた。 水分補給用のドリンクは すでに全員の前にある。 クーラーボックスの中で 凍っているペットボトルを メンバーに差し出し、 頭を冷やしてもらった。 「あ、気持ちいい……」 力の抜けきった 蛍太の声を聞きながら、 慌ただしいスタッフさん達の 動きを見る。 機材トラブルもなく 音響チェックは終わったし、 あとは時間通りに スタートするのを待つだけだ。 「蛍太、もう少し我慢しな。 ステージ脇に 大きい扇風機あるから。 ここよりはマシだから」 あふあふ喘ぐ蛍太を 凌士さんが穏やかに窘めるけど、 落ち着いた彼でさえ 真っ白な頬が赤く上気している。 もうすっかり 日焼け止めの上に メイクを施している彼らは、 顔から汗を かきにくくなっているからだ。 あまり芳しい状況じゃない。 .
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