猛獣チワワと愚鈍な魔女

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  思わず変な声を 出してしまった瞬間、 うしろで朱里さんが くすくすと笑い出す。 話に夢中になって、 歌姫を労うことを 一瞬失念してしまっていた。 「莉々ちゃん、だめだよ。 九鬼さんは自分の したいようにしかしないから」 「でも……」 振り返って 朱里さんを見ると、 彼女は困った顔で肩を竦める。 「今回も、そう。 “Raison d'etre”は 軌道に乗ってきたんだから、 あたしのところに 戻ってきて欲しいって 何度もお願いしてるのに、 なしのつぶて」 「……」 ちら、と お兄ちゃんの顔を見る。 我が兄ながら、 鋭利な刃物のように 端正な横顔。 天下の歌姫が少し甘えた 幼い声でお願い しているというのに、 ぴくりとも動かない 鉄の表情。 流れる景色が ゆっくりになって、 停車する。 正面を見ると、 信号待ちだった。 朱里さんと一緒に じっと見ていると、 お兄ちゃんは わざとらしく溜め息をつく。 「……軌道に 乗り始めた時が、 一番大事なんだ。 もうすっかり 自分のペースで 仕事をしている 歌姫さまのお守りを している暇はない」 .
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