猛獣チワワと愚鈍な魔女

8/40

254人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
  仕事の厳しい面に 晒される度に、 思うもの。 あたしは守られてきて ここまで来た方なんだ、と。 「一言、 言ってくれればよかったのに」 「お前、 崖っぷちのつもり だっただろう。 背水の陣で臨んだ方が、 うまくいくこともある」 「……あたしの メンタル弱いの、 知ってるのに……」 「だから、 ついてやるって言ってるだろ」 反論の余地などありません、 という口調で お兄ちゃんは言う。 我が兄ながら、 有言実行と不言実行が 過ぎると思う。 お兄ちゃんが 口に出すことは、 確かなことばかりだ。 「ソール化粧品の メインモデルになれば、 こまごまとした仕事は 自動的に来るからな。 それを適切に 選別できる人間の手が、 今は空いていない」 「お兄ちゃんだって、 いっぱいいっぱいだって……」 「うちには、 モデル莉々という有望株が 現れたからな。 すっかり安定した 歌姫のサポートはあとだ」 「……」 それに、 育てる方が好きなんだよ、 とお兄ちゃんは小さく笑う。 この苦い笑顔を 朱里さんが見ていたら、 きっと彼女はもう少し 粘っただろうと思った。 つくづく、 転がすのがうまい人だ。 うちの兄は。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

254人が本棚に入れています
本棚に追加