愚鈍な魔女と無礼紳士

15/40
270人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
  お兄ちゃんはあたしを ソール化粧品さんに 送り届けてくれたあと、 ひとつ片付けることが あるからと言って すぐにまたどこかへ 行ってしまった。 朱里さんがまだだし、 お兄ちゃんは “Raison d'etre”も 抱えていることだし、 忙しいなと思って 絵コンテを先に開いて 見てしまおうか迷っていた。 「トンボですか?」 「ええ、 夏にトンボが 飛び始めると、 “ああ夏が死ぬ”って 思うんですよ」 「夏が死ぬ?」 松崎さんとの会話の テンポがまだ よく判らなくて オウム返ししていると、 彼はこっちを見て ふっと微笑んだ。 「夏ってなんかテンション 上がるんですよねえ。 漲るっていうか。 反動で秋になると わけなく寂しく なるでしょう。 今はまだこんだけ暑いのに、 もう数ヶ月もしたら 木枯らしでの季節ですよ」 「そうですね……」 「なんか、 一生懸命やってるのに、 季節に死なれると なんともね」 なんとなく話を濁すような 言い方をしながら、 松崎さんは苦笑する。 その顔を見て、 はっと思い出し 立ち上がった。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!