愚鈍な魔女と無礼紳士

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  「いえ。 松崎さんの おっしゃることは 正しかったです。 私、自分の認識の 甘さを思い知りました。 ありがたかったんです」 いったん遠慮する松崎さんに ずずいと押し付けるように 差し出し言うと、 「参ったなぁ」と 肩を竦めた。 「こっちも、 好きなモデルさんに 逃げられないように 必死だった だけなんですけどね。 ……そういうことなら」 受け取ってくれたことに ほっとすると、 松崎さんはハンカチを しげしげと眺める。 「こんな、 律儀にしてくださらなくても。 また会いたい女性に なんやかや理由をつけて 物を渡すのは 男の常套手段です」 そんなことを さらっと言いながら、 松崎さんは オリオン・ブルーの ハンカチを ポケットに入れて にこっと微笑んだ。 「え……あの、その」 「……さらっと 流してくださいよ、 これくらい」 松崎さんが けらけらと笑うので、 思わず「すみません」と 小さくなる。 お互いに 椅子に腰を下ろしながら、 ちらっと視線を合わせた。 松崎さんの方は あたしを面白いものを 見るような目をしている。 「不思議な人ですねー、 莉々さん」 「そうでしょうか……」 「普通、20代半ばの 女性モデルさんって、 こう、もっと ふてぶてしいというか 図々しいですよ。 褒めてもらって、 口説いてもらって当然、 みたいな」 .
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