愚鈍な魔女と無礼紳士

3/40
270人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
  「莉々は、大丈夫だった?」 「……んー…… ちょっと変な人だなって思って、 怒っちゃった」 「うぇ。 莉々切れさせるとか なに言ったんだよ、 あの女……」 ごめんね、と 蛍太は言う。 なにも言ってないのに 謝るからには、 保坂さんがなにを 言ったかだいたい 判っているんだろう。 そのくらいには、 蛍太もいやな思いを したってことだ。 ……拓海さんの影に 隠れたくなるって、 よっぽどじゃないのかな。 「……別に、 けーたのせいじゃないよ」 蛍太だって、10年後 こんなことになると思って 彼女と付き合った わけじゃないと思うし。 10年前の保坂さんが どんな感じだったか、 あたしだって 思い出せないし。 まさかオーディションから 逃げ出そうとしただなんて 言えなかった。 本気で応援してくれていた 蛍太を怒らせたり がっかりさせるのはいやだし。 「同じ部屋で同じ空気、 吸いたくないって 思ったんじゃないの」 「……」 「あの女、俺達とは 明らかに種類の違う 人間だと思う。 拓海と比べたら 大雑把だけど、俺、 何気に神経質だって 自覚はあるよ」 ふだん口にしないことを とつとつと語り出した 蛍太の頭のてっぺんを、 思わず眺めた。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!