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蛍太はもぞ、と
あたしの腕の中で
身じろぎした。
顔を見ようと
したんだろうけど、
今の顔は見られたくなくて、
ぎゅっと抱いて動きを阻む。
蛍太はふうと
溜め息をついて、
続けた。
「言ったよ。
別れバナシが全然
通じないから、
あんたは遊びだって。
俺が好きなのは、
今大人気のCMの
莉々なんだって」
「……」
──あんたは遊びだ、と。
女の人に冷たく言い放つ
蛍太を想像すると、
あたしの精神衛生上
よくない。
でも、
その引き合いに出されたのは
自分だったって
ことを知ると、
ささやかでほの暗い
喜びが顔を出す。
……女って、
邪魔くさい生き物だ。
意見も感想も
口にすることができないまま
しばらくそうしていると、
蛍太が身体を起こした。
澄んだ
スチールグレーの瞳が、
影の中であたしを
じっと見つめている。
その真ん中に
自分が映っている
この光景は、
何度確かめても
涙が出そうになる。
「それからだよ。
女の子と付き合う時、
最初に“本気じゃないから”って
わざわざ言うようになったの」
「……そうなんだ」
.
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