愚鈍な魔女と無礼紳士

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  「でもさ、このご時世、 そんなふうに心の耳とか ちゃんと持ってる人、 そうそういないじゃん」 “心の耳”なんて言葉が 彼の口から 飛び出てきたことに驚いた。 「けーた、 そんな難しいこと 考えてたんだ……」 「そだよ。 だって、ガキの頃から 思ってたもん。 お父さんとお母さん、 自分の都合ばっかで、 なんで互いの言ってること 聞かねーのかな、って」 「……」 「あと、俺、 愛のなんたるやって、 ガキの頃読んでた漫画で もう知ってたもん」 「ええ?」 「“真ん中で心を 受け取ると書いて愛”って セリフがあって。 もう感動したよ。 じゃあうちの両親に 愛なんてないんだなぁとか」 「……」 「聞く耳持ってない親に そんなこと言う気にも なれないしさ、 じゃあ俺は そんな大人になるまいとか」 「けーた」 いつもにこにこ笑って 太陽みたいだった彼の影に そんな思考が 隠されていたなんて。 びっくりして、 思わず蛍太の頬に 手を伸ばした。 彼は目を瞑って 嬉しそうに頬ずりで 返してくる。 いつも チワワチワワって 言ってるけど、 今に限って 気まぐれな猫みたいだ。 大人の、 男の人なのに。 .
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