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言葉を止めたあたしに
必死に訴えながら、
蛍太は自分の
指先と指先で
いじいじこすり合わせている。
自分の中の怒りが、
ひどくあさっての方向を
向いていて、
子どもじみて
くだらないものだという
自覚はあった。
怒るのに正当な理由は、
もっとたくさんある。
公衆の面前で
なんてことしてくれるんだとか、
あなたはそんなことばかり
考えてるのかとか。
けど、
すっかり恋で茹だった
あたしの胸も頭も、
そうやって自分を守るために
相手を責める──
なんてやり方を
すっかり煮やして
役に立たなくしてしまっている。
だって、
蛍太にキスされること
そのものに抗う理由が
どこにもない。
だから今、
こうしてあたしに
必死に言い訳をする
蛍太を見ていることが、
どこか嬉しい。
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