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「……ばかだなぁ……」
思わず、
自分で自分に対する
溜め息を滑り落とした。
「えっ」
びくっと背筋を
伸ばした蛍太は、
大きな瞳を
うるうるさせながら
絶望の準備をしている。
あたしに怒られるって
判ってて、
なんでやったんだろうって
思うけど。
彼の一貫した言い分を
まま信じるのなら、
それはぜんぶ
あたしのためらしいから。
自分が責められることと
引き換えにしてまで
行動に移した蛍太は、
あたしと同じ
気持ちだってことだ。
腹立たしさは
まだ残ってはいるけど、
そう思うと溜飲は
下がっていく。
別に浮気された
わけじゃないし。
不思議なことに、
白瀬さんの手を
握ったことに
腹は立たなかったし。
──知らなかった。
蛍太への恋心は、
あたしに
当たり前のモラルを
いくらでも曲げさせる。
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