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どぷん、と。
生ぬるい水の中に
落とされた気がしたのは、
ほんの一瞬のこと。
すぐに引き上げられたのは
あたしの体ではなく
意識の方で、
ぬるい水だと思ったのは
甘い気だるさだった。
「莉々?
……へーき?」
心配して覗き込んでくる
蛍太の瞳を見つめ返し、
声にならずに
こくこくと頷く。
自分の呼吸が
乱れているのは判るけれど、
整え方が判らなくなる程度に
意識は体に
馴染んでいなかった。
まるで借り物のように
手足が重い。
蛍太が手で頬を包んで
撫で回してくるのに
任せながら、
重みを吐き出したくて
息を押し出す。
鼻から抜けた
それは思いの外
甘い声も一緒に
連れて行ったものだから、
目の前の蛍太の顔が
ほころんだ。
「ごめんね、ちょっと、
夢中になりすぎた。
……びっくりしたぁ」
鼻先をちょんと当ててから、
額をこすりつけてくる蛍太。
あたしよりもずっと熱い
蛍太の体温に縋りつきながら、
甘い微睡みが
意識の後ろから
ざぶんと大きな波として
押し寄せてくるのを
感じる。
幸せだと思う前に
それが幸せだと判る感じが
たまらなくて、
うまく動かない手で
蛍太の手を掴み、
頬をすり寄せた。
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