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なき声
引っ越し先のアパート付近は、野良ネコの溜まり場のような場所だった。
猫は好きでも嫌いでもないから、近所をうろついたりそこらに溜まってるだけなら害はない。そう思っていたけれど、盛りの季節なのか、あちこちでやたらと鳴きまくる。
家に帰ってくつろいでいると、あっちでニャーニャーこっちでニャーニャー…神経が落ち着かないことこの上ない。
それでも、この時期だけのことだろうからと我慢していたが、外で鳴くならいざ知らず、隣の空き室に入り込んでニャーニャーやられたらさすがに限界だ。
夜中に、隣に入り込んだ猫が鳴き始めたら壁を叩く。物音に驚いたらしく静かになった。でも少し経つとまたニャーニャー。
再び壁を叩く。静まる。また鳴き出す。これを一時間程繰り返したらやっと鳴き声は止んだ。
俺の粘り勝ちだ。鳴きたいならよそへ行け。
そう内心で勝ち誇り、俺は眠りに就いた。
その数日後。仕事から帰ったらアパートがパトカーに囲まれていた。
野次馬の群れに何かあったのかと尋ねたら、俺の隣の部屋から赤ん坊の死体が出てきたというのだ。
空き部屋に赤ん坊? まさか、入り込んでいた猫がどこからか連れて来て、噛み殺すとかしたのか?
恐ろしい想像が脳をよぎる。でも真相は違っていた。
数日の内に新聞記事やニュースになり、世間に出回った真相。
隣の空室から発見された赤ん坊の死体というのは、俺が越してくる少し前に引っ越した、元隣室の住人の子供だった。
シングルマザーの母親が育児ノイローゼになり、我が子を殺して袋に詰め、死体を隠してそのまま引っ越したらしい。
それからは、別の場所で身軽な一人暮らしをしていたのだが、最近になって、夜中に赤ん坊の声が聞こえるようになり、ようやく罪の意識が芽生えて警察に自首した、とのことだった。
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