第9章

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  新井くんが熱のこもった黒い瞳でわたしを見下ろしている。 「……孝宏」 こうやって見詰められる度に、ただ好きだなと思う。 ねぇ気づいている? 新井くんが想うより、わたしは新井くんを想っているってこと。 好きよ、誰よりも何よりも。 言葉では簡単過ぎて、伝えきれない。 だから、もっと。わたしを欲しがって。 新井くんの首に腕を回して、自分の身体に引き寄せた。 密着する身体に自然と熱が灯る。 カタチの良い唇が薄く開いて、わたしの名前を呼んだ。 「祥子」 プロポーズを受けた直後から、新井くんはわたしを名前で呼ぶようになった。 新井くんに名前を呼ばれると、自分の名前に何か特別な意味があるような気がする。 「好きだ」 「……でも、直ぐに追いかけてくれなかった」 新井くんの口からもっと甘い言葉が聞きたくて、わざと拗ねてみせると、新井くんはクスッと笑って、宥めるようにわたしの髪を撫でた。 「それは、痴漢騒ぎのあとだったから、本当に出て行くと思っていなかったんだよ」 耳元で囁きながら、わたしの身体をなぞるように触れていく。
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