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新井くんが熱のこもった黒い瞳でわたしを見下ろしている。
「……孝宏」
こうやって見詰められる度に、ただ好きだなと思う。
ねぇ気づいている?
新井くんが想うより、わたしは新井くんを想っているってこと。
好きよ、誰よりも何よりも。
言葉では簡単過ぎて、伝えきれない。
だから、もっと。わたしを欲しがって。
新井くんの首に腕を回して、自分の身体に引き寄せた。
密着する身体に自然と熱が灯る。
カタチの良い唇が薄く開いて、わたしの名前を呼んだ。
「祥子」
プロポーズを受けた直後から、新井くんはわたしを名前で呼ぶようになった。
新井くんに名前を呼ばれると、自分の名前に何か特別な意味があるような気がする。
「好きだ」
「……でも、直ぐに追いかけてくれなかった」
新井くんの口からもっと甘い言葉が聞きたくて、わざと拗ねてみせると、新井くんはクスッと笑って、宥めるようにわたしの髪を撫でた。
「それは、痴漢騒ぎのあとだったから、本当に出て行くと思っていなかったんだよ」
耳元で囁きながら、わたしの身体をなぞるように触れていく。
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