第1章

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  「お邪魔します」 「どうぞ。汚いですけど」 健太郎はそう言ったけれど、わたしの部屋よりも片付いていて驚いた。 「綺麗にしてるんだね」 「物をゴチャゴチャ置くのが嫌なだけですよ」 適当に座ってくださいと、健太郎は笑った。 ねぇ健太郎。その夜、わたしに言ったこと覚えてる? 健太郎は「結婚を前提に付き合ってください」と言ったんだよ? 「四歳年上の会社の先輩に中途半端な気持ちで告白なんてしません」 そんなセリフを囁かれたら、健太郎に気持ちが向きかけていたわたしには、もう断る理由は見付からなかった。 だから、「でも結婚は一年だけ待ってください」そう付け加えられたセリフにも当然だと頷いた。 幸せだった。最初の一年は。 一年が過ぎると、何も言ってくれない健太郎に、本当にわたしとの結婚を考えているの?と不安になった。 少しずつギクシャクしていって。そのうちケンカをするようになった。 そして、健太郎に嫌われるのが怖かったわたしは、次第に言いたいことも言えなくなっていった。
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