第1章

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「この飴、体温を下げる。熱い夜があるだろう。そんな時、この飴を舐めながら抱き合うと、何よりも涼しい」  ショーキッドに子供が多いのは、この飴のせいだという。 「…子供に言えない飴だな」  子供は単に、涼むために舐めるらしい。 「それに美味しい。買い込んでおいた、持ってゆけ」  何もトラックで来なくてもいい。代わりに、倉庫の食材を持ってゆかれてしまった。 「好意なのでしょう」  どう見ても、食べきれる食料ではなかった。茶屋町は、帰りの三人分のみ保存庫に残しているという。  他に政宗のお気に入りは、サボテンの水であった。ほんのり甘いが、水である。  帰るという前日に、宝来が砂漠仕様の車でやってきた。最後に、ショーキッドの街を見て行けと言う。 「どこから見るつもりだ?」  車は砂漠に来ていた。 「丘からだよ」  地下の女性は、半数が死亡してしまったという。半数は頑張って、生き抜いている。  夕日が落ちると、ドームの街が明るく浮かんでみえた。何かのおもちゃのようであった。あの街で、人々が生きている。 「ここで、生きたかったのかな、俺達…」 「どうかな」  車の上で、胡坐をかいて座る。二人並んで、浮かぶ街を見ていた。 「彼女達の不幸は、俺に会ったことだよな」  星空も大きい。 「まあ、そうね」  宝来の見た目に騙され、中身を見なかった事が原因であろう。 「さてと、政宗」  宝来が車の上に立ち上がると、政宗を抱き上げ地面に降りた。 「この丘が、月の石」  電気刺激で、丘がほのかに明るい。 「暫し会えないだろう。させて欲しい」 「野外で?地面で?」  何度も宝来が頷く。 「ショーキッドで、も、追加」  ほのかに明るい丘から、ドームの街。大きな星空。 「きれいだな」   宝来が見つめるのは、政宗だけであった。  裸で愛し合う、互い以外は無い瞬間。いや、互いというものが、何よりも分かる瞬間。 「熱い時は、飴だってよ」 「いや、熱くはないよ」  どことなく色気はないが、互いに見つめ合いながら、小さくキスを繰り返す。 「ここのサボテン。役に立つよな」  潤滑剤もサボテンであった。 「殺菌作用もあって、粘りも最高」  潤滑材を、宝来がどのように購入したのか、政宗は突っ込みたいが、全身に塗られてしまっていた。 「乾燥も防ぐから、肌に塗っておくといいらしいよ。女性が美容にも使用している。虎森丸に積んでおいたよ」
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