第1章

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 車に乗せていたスコップを持つと、屋根から外に出る。外は静まり返っていた。車は、すっぽりと砂の中であった。 「朝までに、掘り起こせるといいな…」 「全くだ」  二人でせっせと、車を掘り起こす。  朝方、やっと掘り起こした車に乗り、政宗は虎森丸に戻った。これで、ショーキッドを去る。 「じゃ、またな」  軽い挨拶で、政宗は宝来と別れ、虎森丸はオウランドへ向けて出発していた。  小型宇宙船で長距離であったが、内部三人では広く、ストレスを感じる事がなかった。オウランドに近付くにつれ、時宗を毎日、会話していた。学校での出来事、晩飯のメニューなど、ささいな会話も楽しい。  茶屋町も、真誓と会話し、陽菜の映像を見ていた。  そんな時、あと少しでオウランドに到着というときに、通信が入っていた。 「ショーキッドで大規模火災が発生。行方不明者、及び生存者不明」  どういうことなのだ。その後、オウランドに到着しても、ショーキッドの情報は掴めなかった。通信設備も火災に遭ってしまったらしい。 「父ちゃん!」  時宗が泣きながら走ってきた。政宗は、時宗を抱き上げて運びながら、自宅に入るとニュースを探した。 「宝来さんは、どうなったの?」  生存者不明、空港設備が燃え、救助できず。悪い知らせばかり届く。虎森丸で、再び向かったとしても、到着は一か月後であった。  やはり、政宗もショックが大きく、心配した黒崎も同居になってしまっていた。 「政宗さん、新しい情報はありません。休んでください」  政宗は、眠れなくなっていた。  ショーキッドの情報は乏しく、ユカラ経由でも何も分からない。軍部の情報を探してみたが、あまりいい情報は無かった。 「調査は茶屋町さんもしていますから…」  黒崎は、ゲストルームに泊まり込んで、政宗の傍を離れないでいた。黒崎が居ることで、茶屋町はユカラや軍部に、直接、情報収集に行く事ができた。 「政宗さん」 「……」  政宗は、ショックで声が出なくなっていた。  ショーキッドでの生存者は、絶望的というニュースが日々流れていた。政宗は、テレビも見なくなっていた。  政宗は、それでもからくり屋をこなし、ユカラの依頼も受けていた。声を失っても、ヒカリが通信しているので、どうにかはなる。困っているのは、ミチルのようで、政宗の口が読めなくなっていた。 『ミチル、車から野菜を降ろして欲しい』
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