第1章

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 政宗は手話でミチルに頼む。ミチルは、哀しい表情をしてから、了解と手話で返していた。  ショーキッドのサボテンは、オウランドの砂漠でも生息できた。  でも、政宗はサボテンを見ながら、時折泣いていた。 『やはり、ショーキッドに行きましょう』  自分の目で確認しましょうと、ミチルは同じように泣いて伝える。それを見ていた、エイタまで泣いていた。 「やっぱり、それが一番かな…」  茶屋町も、やつれた政宗を見ていられなかった。 「皆で行こう、傷みも辛さも、分かちあおうな…」  今度は全員で行こう。どんな現場も、一緒に見よう。  茶屋町は、再び許可を取ると、倉庫を食料で満たす。今度は人数が多い。しかも、ショーキッドでの食料の補充は不可能であろう。 「政宗、行くよ!」  黒崎も来るという。茶屋町だけの操縦では長距離は辛い、政宗は体力が尽きそうであった。 「とにかく眠れ、政宗」  黒崎が添い寝して、やっと政宗は眠りについた。  時宗も真誓も、詩織も、エイタもミチルも虎森丸に乗っていた。留守番は、シロヤとクロヤに頼んでいる。  仕事をキャンセルして、上原まで乗り込んでいた。 「黒崎さん、代わります」  上原が添い寝して、政宗を眠らせる。  宝来を失ったら、政宗も生きていない。その関係が分かってしまった。  時宗も真誓も、政宗の傍から離れる事を怖がった。 「父ちゃん。俺は、真誓のいい兄貴になるよ。父ちゃんに孫も見せるよ」 「真誓は、いい息子になるよ」  政宗がほのかに笑う。その笑顔は、息子が見ても天使であった。 「父ちゃん以外に、父ちゃんはいないからな…」  政宗も皆の心配は分かる。しかし、どうにもならなかった。  宝来は死んではいない、信じているのに、どこかで否定するのだ。否定の度に、自分自身を傷つけてしまう。  上原は、政宗の体調を管理し、新薬を投与していた。弱ってしまった、ミラレスの天然体は本当に儚い。 「政宗、ショーキッドで自分の目で確認するのだろう。せめて、食事を取れ」  上原は、栄養剤も持ってきていたが、日増しに政宗は弱っていた。既に、ベッドから降りる元気もない。 「兄さん…俺を一人にしないで欲しい」  知る前は、上原も一人で生きていた。でも、兄が生存していて、近くに居てと、家族というものを知ってしまってから、失うのは辛い。
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