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 さて、お姉さんに出会ったのは、八月も半ばを迎えたころのことでした。いつも一緒に遊んでいた友達が、親の里帰りや親戚の集まりといった理由でいなかったものですから、私はひとりで暇を持て余しておりました。家にいますと「宿題はしたの?」なんて親に言われるものですから、昼食を終えると一目散に家を飛び出し、鴨川のほとりをぶらぶらと散歩することにしたのです。  馬鹿みたいに暑い日だったと記憶しています。空には青空が広がっていて、何にも遮られることのない陽の光が燦々と照りつけていました。歩いているだけでも全身に汗が浮かんできて、「鴨川に飛び込んだら気持ちいいだろうな」なんてことを思っていました。  鴨川デルタを少し過ぎたところで、糺の森の木々の間に白いテントが並んでいて、大勢の人が集まっているのを発見しました。この時期になると「下鴨納涼古本まつり」なるものが行われているということを、私は露も知らなかったものですから、「お祭りでもあるのかな?」と胸をときめかせ、汗だくになるのも気にせずに駆け出したのでした。  糺の森に辿りついたときの私の落胆が想像できるでしょうか。林檎飴に焼きそば、射的にくじ引きといった屋台を期待していた私の目に映ったものは、見渡すかぎりの本の山でした。当時は男子に交じってチャンバラ遊びをしているタイプの女子でしたので、読書などというものに興味がなく、それなのに親や学校の先生が「読書をしろ」だの言ってくるものですから、私は本というものに何か敵意のようなものを持っていたのです。  すぐに帰ってもよかったのですが、他にすることもなかったので、少しだけ覗いていくことにしました。覗いていくと決めたのはよいのですが、難しそうな分厚い本ばかりが並んでいて、どうにも手に取ってみる気にはなれなかったのでした。
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