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 五分ほど経っても面白そうな本が見つからず、そろそろ帰ろうかなと思っていた矢先のことです。ふと一冊の本が目に留まりました。題名も著者も忘れてしまいましたが、表紙に描かれた可愛らしい女の子の姿に心惹かれたのを覚えています。  私はその本を手に取ってみました。ぱらぱらと開いてみると中身は普通の小説でした。本の内容にはあまり興味を持てなかったのですが、数ページごとに前の持ち主が描いたのであろう落書きがありまして、それがとっても可愛らしかったために、私はいつの間にか夢中でページを捲っていたのでした。 「本がお好きなんですか?」  このタイミングでお姉さんに話しかけられたわけです。私が落書きを見るために夢中で本を捲っていたのを、大層な読書好きなのだと勘違いしてしまったようです。私は何だか申し訳なくなってしまいました。先ほども述べましたように、当時の私にとって本は敵のようなものであって、決して好意の対象などではなかったからです。  お姉さんに話しかけられて、私はとても驚いたのですが、私と目が合った瞬間、お姉さんも驚きの表情を浮かべました。それこそ心臓が飛び出しそうなほど驚いているように見えましたが、それも一瞬のことで、お姉さんはすぐに優しそうな笑顔に戻りました。今では顔も忘れてしまったのですが、その表情の変化はよく覚えています。私があまりにも驚いたものだから、きっとお姉さんも驚いてしまったのだろうと思います。 「本はお好きですか?」  目を見つめたまま黙ってしまった私に、お姉さんは同じ質問を繰り返しました。私は一瞬どう答えたらよいか迷いましたが、正直に答えることにしました。「どちらかというと嫌い」と言うと、お姉さんは「私も嫌いでしたが、今は大好きですよ」と微笑みました。  お姉さんは机の上に並んである本を数冊手に取ると、どういうお話なのかを教えてくれました。楽しい冒険のお話、悲しい別れのお話、素敵な恋のお話……国語の授業には全く興味を持てなかった私ですが、いつの間にかお姉さんの話を聞くのに熱中していました。
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