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 どれくらいの時間が経ったでしょうか。数分だったようにも、数十分だったようにも思います。お姉さんの話に夢中になっていた私は、突然に頭の天辺に走った刺激で我に返りました。上を見上げますと、先程まで青かったはずの空に、どんよりとした鉛色の雲が浮かんでいました。頭の天辺にぶつかったのは雨粒のようです。通り雨のようでした。  雨足はすぐに強くなりました。雨が降るなんて予想していなかったものですから、もちろん傘なんか持っていません。私は途方に暮れましたが、お姉さんは水玉模様の傘の中に私を入れてくれました。まわりの人もみな傘を差していました。先ほどまで雲ひとつない青空だったのに、誰もが雨降りを予想していたことに驚きました。 「家まで送ってあげましょうか?」  お姉さんは言いました。申し訳なかったですし、まわりの大人には「知らない人についていくな」と散々言われていたものですから、最初は断ろうと思いました。しかし、何故だか分かりませんが、私はお姉さんに妙な親近感を感じていましたし、お姉さんが「私も東山のほうに家がありますから」と言いましたので、お言葉に甘えることにしたのでした。  私とお姉さんは相合傘をしながら鴨川のほとりを歩きました。お姉さんは先ほどの話の続きをしてくれました。色々な本のお話です。お姉さんと歩いていると、いつもの街並みが少し違ったものに見えました。お姉さんが肩から提げている鞄には、小さな鈴のキーホルダーが付いていて、足を進めるたびに「ちりん、ちりん、ちりん」と、とても可愛らしい音で鳴っているのでした。私はその音をとても気に入りました。  いつの間にか雨は止んでいました。お姉さんが傘をたたむと、目の前に大きな虹がかかっているのが見えました。美しい虹でした。感動などという言葉を使ってしまうと、陳腐にしか聞こえないような気もしますが、やはり当時の私の心情を的確に表現するならば、それは「感動」という言葉の他にないと思うのです。
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