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 9ページ  村長は男たちに言った。 「気を付けて下さい。この沼は底無しです。木は山から切り出さなければなりません。あるのは鉈と斧だけです。それから食糧は果実だけです」  この日から男たちの、寒さが伴った格闘が始まった。最初は山から竹を切り出し、それを動物たちに運ばせて足場を作った。初めは恐る恐るだった住民たち、やがて手伝わないが、自分たちから進んで顔を見せた。男たちは木を切り出し、それで桜への足場をしっかり作って行った。幾日もかけて中央の島に辿り着いた。見事と思える桜だった。根元が大分傷んでいた。男たちはその傷んでいる部分を取った。その部分を保護するものは何もなかった。男たちは桜全体を見渡した。 「支柱必要だと思うか? 傾きはそれ程でもないけど」 「必要だろうな。念には念をだ」 「俺もそう思う」 「大分木が要るぞ」 「仕方ないよ」  そこにメーナが現れた。 「どうした? 何か用かい?」 「お弁当持って来たの。おにぎりよ」 「それはありがたい! ありがとう!」 「助かるよ、ありがとう! 果物ばかりじゃ力が入らないよ。ありがとう!」 「本当だ。助かるよ、ありがとう! 素晴らしいエネルギーの籠ったごちそうだよ。ありがとうね。お嬢さん、桜好き?」 「好きよ、大好き! お姉ちゃんも大好きだったの」 「大好きだった?」 「お姉ちゃん狼に殺られたの。半年前。私、悲しくてずっと心閉ざしたままだったの。両親は辛かっただろうにね、いつも私の事心配してくれたの。両親も桜大好き! だからこの桜、どうしても咲いてほしいの」 「お嬢さんお名前は?」 「メーナよ」 「俺たちメーナの祈りも込めて、頑張るよ」 「ありがとう! 嬉しい! 頑張ってね」 「メーナ、ありがとう!」  男たちが食べ終えると村長が現れた。 「大変ご苦労様です。心からお礼言います。ありがとう! ほしいものがあったら言って下さい。できる限り願いを叶えます」 「村長さん、この根の傷み、我々にはどうにもなりません。それからこの傾き、我々にはどうにもなりません。これ以上傾かない処置を取るしかできません」 「結構ですよ、それで。ありがたい!」  そこに花の妖精たちが現れた。 「花の妖精たち、この根の傷み、何とかならないかね?」と村長。 「分かりました」  花の妖精たちは魔法を使って、たちまちその部分に防腐剤が塗られ、縄が巻かれた。
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