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 13ページ  鞭は魔女の体に巻き付いた。魔女はびっくり。 「馬鹿な! そんな馬鹿な! 鞭使い名人の私の鞭が、私の体に巻き付くなんて。そんな馬鹿な!」  魔女は巻き付いた鞭を解いて、また大きく鞭を振って男たちに向けた。鞭はまた彼女の体に巻き付いた。 「そんな馬鹿な! 信じられない! 鞭使い名人の私の鞭が、私の体に巻き付くなんて、信じられない!」  魔女は鞭を解いてまた男たちに向けた。結果は同じだった。身構えた男たちは唖然。魔女の顔は蒼白。 「そんな馬鹿な! 信じられない! 忌々しい!」  魔女は鞭を解いて棄てた。そして右手をゆっくり大きく上げた。その手には1メートル程の魔法の杖が握られていた。また身構えた男たちは防衛態勢で一歩、二歩下がった。魔女は右手を上げたまま、 「許さん! 私の使命を邪魔するのは許さん! 使命を果たさず帰るのは死と同じ。魔法の杖の威力、思い知るがいい!」  魔女は右手を男たちに向けて降り下ろした。だが魔法の杖は彼女の頭上で宙に静止したまま。彼女は手だけ男たちに向けた。彼女はびっくり。 「な、何なの? そんな馬鹿な!」  魔女は頭上を見た。その杖を掴んで男たちに右手を向けた。結果は同じ。 「そんな馬鹿な! 私、漫才しているんじゃないのよ。そんな馬鹿な!」  男たちの警戒心が薄れた。魔女は確かめた。魔法の杖は動いた。彼女は男たちにそれを向けた。結果は同じだった。 「そんな馬鹿な! そんな馬鹿な! 私、私…」  突然大地が大きく揺れた。一同の顔から血の気が消えた。助けを求める叫び声が聞こえた。 「大変よ、大変! 助けて! メーナの家の前が土砂崩れよ。家が埋まっている! 助けて! 助けて!」  村長と男たちはまっしぐらにそこに向かった。魔女は一人残った。彼女はあらゆる感情を捨て、斧を手に取った。そして渾身の力を込めて、桜に斧を降り下ろし続けた。メーナの家は根のある大きな岩を壁に使っていた。その岩が崩れた土砂を止めた。だが土砂は岩の側から家を包もうとしていた。男たちや住民が救助に当たった。住民たちの男たちに対する警戒は溶けかけていた。重労働を厭わない桜への愛情、救助という温かな善意、命の尊さに対する真心、心を合わせ合う善意、男たちにはそれらが輝いていた。みんなの必死な救助で土砂が取り除かれた。メーナの家は頑丈な岩に守られていた。土砂崩れの影響はほとんどなかった。
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