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婆やは相槌を打った。
「ああ、そう思うよ。桜は心の一部のような気がする。この五十年、色んな事があった。一緒に喜んでほしかったよ。ずっとずっと待ち侘びたね。あの時、あの時、一緒に喜びたかった。そんな思いが一杯あるわ。喜びを表現するのは桜が一番、そんな気がするよ。桜はね、希望と祝福を心に見せる宝石だよ」
「婆や、わしもそう思う。桜は希望と祝福を心に見せる宝石だよ」
住民たちが男たちに言った。
「桜をお願いね。頼むね。みんなの宝石だからね」
男たちは責任を感じて喜んだ。
「ありがとうございます。頑張ります!」
男たちは桜が気になった。
「桜が心配だ。どうなっているか…」
「まさかと思うけど…」
「とにかく戻ろう」
見えていいはずの場所で男たちの顔色が変わった。彼らは助けを求める叫び声を聞いた。
「助けて! 助けて! お願いよ! 助けて!」
沼の辺りに立った男たちは、頭が真っ白になる程愕然とした。桜は切り倒されていた。
「お願い、助けて! 助けて! お願い!」
魔女は乙女姿だった。彼女は桜の枝に押さえ付けられ、沼にはまりかけていた。両手で必死にしがみ付いていた。自力では上がれなかった。男たちは見つめたままだった。頭は真っ白になったままだった。幾日も必死に頑張った苦労が、水の泡になった衝撃は余りに大きかった。そこに村長が現れた。彼は桜には触れずに、
「助けてあげるべきだね。命の尊さは心の美しさを見つめているよ」
男たちは枝を除けて乙女を助けた。助けられた乙女は勝ち誇ったように言った。
「礼は言わないわよ。私は任務を成し遂げただけ。言ったはずよ、最高の報酬が最高のプライドだって。残念だったわね」
男たちは怒る気力を無くしていた。命がけの苦労と夢が水の泡になった。その悲しみは巨大な岩がのしかかったみたいに、失意のどん底へと広がっていった。乙女は男たちに背を向けたまま、
「最高の報酬こそ最高のプライドよ。つまらぬ意地で最高の報酬を台無しにして、木に登った豚に笑われるわよ」
ここまで馬鹿にされて、激しい怒りを感じているのに、男たちは失意の絶望感でそれらに火を付ける事ができなかった。桜を倒された事はそれ程の衝撃だった。花の妖精たちは祝福するみたいに乙女に言った。
「魔女様、ご苦労様です。さぞかしご苦労だった事でしょう。本当にご苦労様です!」
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