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「やることは簡単。探してもらいていものがあるわけ。それはね、ある通り道を通っていくから、しばらくある場所に住んでいて欲しいのよ。で、それが現れたら電話すること。ただそれだけ。簡単でしょ」
「住むだけですか? 何のためにそこに住むんですか。ご自分で住めばいいじゃないですか」
「鈍いわね。僕はもうすでに他のところに住んでるのよ。でも、いくつかのところに同時に住まないと意味がないわけ」
「そんなこと言われても、もう自分は死のうといていたので何もやる気もないし、それに、」
「死にたいってそれはさっきも聞いたわ。何回も同じ事言わなくていいよ。だからあんたに声をかけたのよ。やる気のない人が欲しかったわけ。根掘り葉掘り聞いてくるトンチンカンなやつはいらないわけ。わかる? 生活に必要なものは最低限置いとくから、あんたはただそこに居て部屋から出ないでもらいたいのよ。一日中、特に夜中は起きていてしっかり探って欲しいの。だからこそ、この世を去りたいと思っている奴を探してたのよ。そこに丁度運よくあんたが出てきた。そゆこと」
指を指してるその指がなんか怖い。
ただ偶然に自分を見つけたということか。
何言ってるんだこの人は。現実離れしすぎていて疲れる。
ここにきて力が抜けてきた。
足腰の力がストンと抜け、ペタンと地べたに座り込む。
目の前に立っている女の人を見上げる。
逆光で顔の表情は見えないけど、腕組みして大股開きでなんか偉そうだ。
死にたくてここへ来たのに、まだ死ねないこの苦しみを伸ばそうとするなんて、なんて最後まで意地悪な世の中なのか。なんて理不尽なのか。
「最後にさ、人の役に立ってよかったって思って死ねたらいいと思わない? 少なくともそのくらいは感謝して殺してあげるわよ」
ふふんと鼻で笑っている。
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