【2】動物霊の通り道になっています

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死ぬ前に感謝される。か。 最後に感謝されたのはいつだったっけ? もうずいぶん昔の話で覚えていないや。 人にありがとうって言われた時の気持ちってどんなのだっけ? ああ、覚えてない。 「最後には本当に苦しまず、痛くなく、死ねるんですか」 「嘘は言わないよ」 だったらいいか。どうせすぐ死ぬことになるんだ。 少しくらい伸びて、そして最後に感謝されて死ねるなら、一人でここから飛び降りるよりはるかにいい。 「わかった」 「よし。じゃあ、今からここに書いてある住所に行きな。鍵はこれ。部屋に入ったら机の上に置いてあるノートを読むこと。そしてその通りに行動すること。いいわね」 「わかった」 「冷蔵庫の中に必要なものが詰まってる。好き勝手に飲み食いしながら言われたことをやるんだよ」 「わかった」 渡された紙を広げると、駅からその物件までの地図と部屋の号室。ここからだったら目と鼻の先だ。近い。 「ここに、」 息を飲んだ。 さっきまでここにいた女の人は忽然と姿を消していた。 いつの間に? 屋上の出入り口が開け放たれている。 音もさせずに? ここからドアのところまでだって結構距離あるよ。 それを、手渡された紙きれを読んでいるほんの数秒程度で移動するとかありえなくない? もしかしてさっきの女の人は幽霊とか? ここから飛び降りて行った昔の幽霊とか? そう思うとブルルと震えてくる。 紙をポケットに押し込み、靴を急いで履く。 足早に屋上のドアに向かい、音を立てずにドアを閉め、階段をそうっと降りた。
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