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夜中の二時を回ると、いつも通りに体の芯が震えるほど寒くなる。
暖房を入れて風向きを固定してもこれだ。
寒くなっているときは来ている証拠だと言っていた。今このときにここら辺を動物霊が通っているということか。
視ろ。
とはなんとぞんざいな言い方。
霊能者じゃないんだから視えるわけがないとは思うが、言われた通りに視ようとする自分はなんとも愚かだなと思う。
とはいっても、目を凝らしてみたけど、視えない。
目を細めてみたけど、視えない。
鼻の下を伸ばして更に目を細めてみたけど、ぜんぜん視えない。
ふうっと力を抜いた。肩の力を抜いた。
スと左の片隅に黒い影が通った。
そんな気がした。
そっちに視線を向けるけど何もいない。
緊張が走る。
視えちゃうの? もしかして視えちゃうの?
視たいけどそれはそれでとてつもなく怖い。
もう一度、恐る恐る見てみた。怖いもの見たさだ。
でもやはり視えない。
気のせいか。
そう思うと落ち着いた。体から力が抜けた。
暖房の風も感じられるようになった。
安心したそのとき、背筋を冷たい何かが上から下へと這った感覚に襲われた。
ゾッとした。何かがいる。後ろに何かがいる。何かとてつもなく巨大なものがいる。背中を覆うようにヌメっとしたものがいる。
急激に恐ろしさが増し、呼吸が荒くなる。電話じゃなく布団を掴んだ。
そのまま一気に頭から被り、目をきつく閉じる。
布団越しに覆い被さってくるのがわかる。
消えろ。消えろ。消えろ。消えてくれ!
心でお願いする。なんかよくわからないけど、どこかで聞き齧ったお経のようなものを唱える。
何分かはたまた何時間かはわからないが、布団の中で丸くなって目をぎゅっと閉じ、耳を両手で塞いでいた。
寒いはずなのに、今は汗だくだ。
耳から手をゆっくりと離す。遠くの法でスズメが鳴く小さな声が聞こえてきた。
朝だ。
あの得体の知れないなにかはいつの間にやら消えていた。
もう大丈夫だ。もう来ない。
そう思うと安心し、自分でも知らぬ間に眠りに落ちていた。
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