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「私のせいじゃない」
「何を言うか。お前のせいだろう」
「いやいや、こいつがいきなり阿呆みたいに急に振り返るから」
「お前、それは阿呆に失礼だぞ」
「それにしてもなんでこいつは今日に限ってこんなことをしてきたのか」
「まったくだ。こっちにも考えがあったというのに」
「バカだな。こいつはバカだ」
「そのおかげで伸びちゃってんだから仕方ない」
「どれ、こいつが伸びてる間に片付けてしまおう」
「じきに朝になる」
「そうだそうだ」
誰?
頭の中の遠くの方、ややもしたら消えて忘れてしまいそうなところで話している声が聞こえる。
これはきっと朝起きたらすっかり忘れている、あれだ。
夢の中では鮮明だったのに、朝起きて時間が経ったら綺麗に忘れてしまういつものあれだ。
その日の夜になったら全部綺麗に頭の中からすっぽり抜け落ちるあれだ。
記憶のかけらは生ぬるい沼の中に潜る。なんかの拍子で沼から顔を覗かせるが、それが何か考えている合間に無情にも沈んでしまう。そして思い出せなくなる。
そのうち何を考えていたのかもわからなくなってしまって、その沼も消えてしまう。
ほら、光が入ってきた。朝が来る。
現実が戻ってくる。
いつまでも夢の中に入れたらいいのに。
夢の終わりかけはいつもこうだ。現実と夢が交わって何がなんだかわからなくなる。
テレビの音が聞こえてきた。
昨日、消さなかったっけ?
物を置く音が聞こえる。
嘘、誰かいる。
やばい。現実に引き戻される。夢と現実が引き離される。
起きた時、そこに誰かいたらどうする?
そろそろ目覚めるぞ。
もし、そこにいるのが幽霊の類なんかじゃなくて強盗犯とかだとしたら、自分は……
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