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《湖》
「白子さん、あの人やっぱりなんか隠していると思うんですけど」
「ねえ、湖ちゃんさあ、今ごろそんなことに気づいた?」
「はい。なんかだって変な影みたいなの纏わりついてるし、こびりついてるっていうか、あ、失礼な言い方ですよね」
「あんたの頭が失礼だけど、アレの腐敗臭が気にもならない湖ちゃんの、あるかないんだかわからないそのお鼻がうらやましいわね」
無視することにしている。嫌味の類はガン無視するって決めているのだ。
白子さんも出雲さんもふっつうに嫌味を吐き出してくる。そりゃもう挨拶かなと思うレベルで。
これにいちいち反応していたら精神的に疲れ果てる。なので、無視。
白子さんは出雲さんの猫なので、もう本当に性格が飼い主そっくり。
猫だから許そうって思ってたけど、思っていたけれどもだよ、化け猫だし、猫じゃないし、と最近思うようになってきた。で、一呼吸おく。
「あの人、腐ってるんですか?」
「えぇぇぇぇぇ」
「やめてもらっていいですか、そのあからさまに胡散臭い驚き方と汚いものを見る眼差し」
「嘘でしょ。そこまでアレな子なわけー」
「……」
白子さんはまるで漫画のように両手で口元を隠し、ちょっと退いて見せた。でもその目は笑っている。
「ここに入ってきた時点でそう言ったじゃない。あいつやばいわよって」
「やばいっていうのは、やばい臭いだったってわけですね。そう言ってくださいよ!」
「察しなさい。それに、あの部屋で探し物が見つかればいなくなるわよ」
「その探し物ってなんなんですか? 私あの部屋掃除に入ってるんですけど何もありませんでしたよ」
「生きてる人には見えないんでしょうね」
「じゃあ、白子さんには見えるんですよね。だって人じゃないし!」
「あんた蹴っ飛ばすわよ。あたしをその辺の人ごときとか生き物ごときとか霊ごときなんかと一緒にしないでくれる」
「よくわからないですけど、なんかこっちもヤバくなりそうなんで一回謝りますからね。すみません」
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